シナリオ「復讐の館」リプレイ風小説 プロローグ

ショウのアトリエ 連鎖を断ち切る勇気
    ~TRPGリプレイ風小説 復讐の館~

プロローグ

「ありがとうございましたー」
 ガラスの扉の前で、最後の客を送り出した関口昭行(せきぐち しょうこう)は、扉のサインを「CLOSED」に変え、店に戻った。
(いよいよ明日か……)
 関口は端末のカレンダー機能を見ながら思い返していた。明日は高校時代の友人、四谷大輔(よつや だいすけ)に会う日だ。四谷は高校卒業後、大学の医学部に入り、その後三重の病院で医者をやっている。そう、四谷は真面目にやっていることを、関口はよくよく知っていた。
 四谷には、有名どころでエンジニアをしていると言ってある。自分で店を立ち上げて、自作の機械を実演販売しているなんて知ったら、四谷はなんて言うだろう。
(なんとも言われないさ)
 そうは思ったが、四谷には本当の仕事を言う気にはなれなかった。
 次の日、関口は待ち合わせ場所である鳥羽南駅近くの喫茶店の前にいた。駅のほうから懐かしい顔が見えてきて、関口は顔をほころばせて手を振った。
「やっほー、ダイ。どうしたよ」
 ダイというのは四谷のあだ名だ。関口のあだ名はショウ。大小コンビで有名になったかというと、そうでもない。
「やぁ、ショウ、久しぶり。急に呼び出してすまないね」
「時間は山ほどあるから大丈夫さ。相談ってのはなんだい」
「えーと……」
 四谷は辺りを気にしている。相談といっても、軽い物ではないのだろう。
「あ、ここで話すのはなんだから、店の中で話をしようか」
 そう言い、四谷が店のドアを開けると、ドアベルの音がした。
「いらっしゃいませー、二名様ですね。こちらへどうぞ」
 関口が椅子に腰を下ろすと、四谷も「ふう」と言って腰を下ろした。ウェイトレスに注文を伝え、ウェイターがコーヒーを二つ運んできた。ウェイターがいなくなったのを見計らって、関口は机に両肘をついて、顎の下に両手を組み、話を切り出した。
「……ところで、相談というのは」
「あぁ、そうだった。実は……最近、よく悪夢を、ひどい夢を見るんだ。夢の中で僕は見た事のない化け物に追われていて、いくら逃げても捕まってしまう。そして、『もうすぐで神様の裁きが下る、お前で最後だ』って声が囁くんだよ」
「それは……、なんともひどい夢だ」
 神の裁き。……少し前に見た刑事ドラマに、そんなセリフがあった。犯人である医療ミスをした医師が、被害者に「お前に神の裁きが下る」と脅される、そんなオープニングだった。
 四谷が医療ミスを起こしたとは信じたくないが……、こういうことは聞き出すに越したことはない。
「現実では何もないのか」
「そうだね……、昼間少し眠たくなるくらいかな」
 関口はやや前のめりになった。
「悪夢を見るようになる前には、何もなかったのか。思い当たるきっかけのような物は」
「いや、そう言った事は無いかなあ……」
 話が平行線だ。四谷がコーヒーに口を付けるのを見て、関口もコーヒーに手を伸ばした。コーヒーを飲んだ関口と四谷は急激な眠気に襲われ、抵抗する間もなく視界が暗転した。

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